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「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」
「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」
「あいつももう仕かたがないのですよ。『青ペン』通いばかりしているのですから。」
「へーえ」
と、さつき目にもとまらぬ速さで腕にさはつたときと同じく、軽くすつと身をひくやうにしたかと思ふと、もう背を向けてそゝくさと葭子張りの便所に入つて行つた。――
「なに?競馬のこと?」
「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」
盛子は上から見、下から見しながら、
それから上着を脱ぐと、ワイシャツの袖をまくり上げて、診察にかゝつた。無造作にひよいと病人の瞼をつまみ上げ、めくつて、眼の色を調べた。半裸体のむき出しになつた腕をつかんで静かに屈伸させた。顔面の皮膚をひつ張る、足を立てさせる、今度は足の裏を見る、――それはまさに手慣れた、素速い、注意深い動作だつた。まさしく、医者といふものだつた。
それまで房一は、加藤巡査を通じて出張所と話をつけ、何らかの形で収拾させたいと考へていたのである。が、彼の素速い判断力は今はその余裕もないことを見抜いた。
「さうか。うちの方では山車だしを引いて出るさうだ。それから、みんな紋付に羽織袴といふことだの」
「あれなら、私の方からいゝやうにしときます」
「――さうだな」